チームでNo.1の投手は『エース』と形容されます。
投手として一定以上の技術や能力を有していることが前提となりますが、私はエースには人格が必要だと思います。私の中では「いちばん良い投手」と「エース」は似て非なるものだと思っています。
『エース』とは
・「こいつなら何とかしてくれる」という周囲の期待
・「俺の後には誰もいない」という本人の責任感
を背負ってマウンドに立ちます。
この「周囲の信頼」「自らの責任感」は根拠のあるものでなければなりません。闇雲な自信や信頼に価値はなく「●●だから信頼できる」と言った理由があってこそ、その「信頼」「責任感」に価値が生まれます。そんな「エースの人格」を形成していく上で大切だと思うことを幾つか挙げたいと思います。
①「攻めの投球」ができる積極性
エースはチームの期待を背負っています。ピンチの場面で出てくれば「こいつなら抑えてくれる」という期待、2ストライクに追い込むと「三振を取ってくれる」という期待、強打者と対戦する時には「力でねじ伏せて欲しい」という期待など、周囲は様々な期待をします。私は指導している投手には「四球を出しても置きに行くな!」と指導しますが、それはカウントが悪い時に弱気な投球になってしまう投手は「周囲の不安を解消することはできても、期待を集めることはできないから」です。
高校生であれば2ボール1ストライクでもボール気味のスライダーで空振りを狙いにいける(3ボールになるリスクを取って攻めることができる)ような攻撃的な投球をできる投手にはとても魅力を感じます。
②頼られる人格
ピンチの場面を託す時に「無責任な人」と「責任感のある人」であれば、後者に託したいと思うでしょう。普段から「任せたことはちゃんとやってくれる」「人が嫌がることもやってくれる」といった姿勢に責任感を感じることができます。「エラーするなよ」という投手よりも「ランナー出ても俺が三振取るから大丈夫だよ」なんて投手が居たら、後者の方が「頼れるエース」という感じがしますよね。
普段から「頼みやすいキャラクター」も大切だと思います。
1998年夏の甲子園、横浜高校vs明徳義塾の試合。
試合後半に外野を守っていた松坂大輔選手がブルペンで投球練習を始めるだけで球場がざわめき始め、マウンドに上がると一気に球場の雰囲気が変わりました。
味方だけでなく相手チームや球場全体がそのパフォーマンスに期待する。彼は本当に「エースらしいエース」だったと思います。もちろん能力は高いのですが、それだけでなく、四球を出しても堂々としている姿は「攻める姿勢」「最後は何とかする」という期待ができる投手だったからだと思います。
野球を見ているとたまに「マウンドに上がるだけで周囲が盛り上がる投手」が居ます。びっくりするような豪速球を投げる投手や球が速くなくても変幻自在な投球術で相手打者を手玉に取ったり、1死3塁で三振が取れる投手は「ガツンと行ってやれよ!」「ここで曲げちゃえよ!」「三振狙えよ!」という期待してしまいます。
私は「いちばん良い投手」というのはいろんな評価の仕方があるので、一概には言えないと思います。しかし『エース』というのは「こいつに投げて欲しい」とか「こいつなら何とかしてくれる」「こいつが投げる姿を見たい」といったチームの期待を一番集められる投手がエースナンバーを背負うべきだと思います。
誰に託すか?選手の意見を聞いてみるのもひとつの手だと思います。